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銀土一本「癒し」 [SS小説]

ツイッターの銀土版深夜の60分一本勝負、お題「癒し」



「あ、」
「……え」
 町中で銀色の天パに出くわしたと思ったら腕をしっかりと掴まれてどこぞへと引きずられた。
「ちょっとおたくの副長借りる」
「はぁ、どうぞ」
(いやいやいやなにどうぞって返してんの? なんなのテメー地味過ぎて隊士全員に一日中気づかれない呪いかけるぞっ)
 やる気なさげに返した地味な部下の姿が徐々に後ろへと遠ざかっていく。
 何しやがんだテメーは。そう言い掛けた口はどこか必死な男の雰囲気に黙んまりを決め込んだ。何があったんだとそう問いかけたくて思い止まったのはどこか泣きそうに歪んだ男の顔のせいだったのか、それとも弱音を吐くまいとしっかと結ばれた唇のせいだったのか。
 手近な路地へと飛び込むと、土方の存在を周囲から隠すように体全体で覆い被さってくる。一応は一般人である男とは違い真選組の副長として土方はこの江戸で知らない者の方が少ないくらいの有名人でもある。どこの世界にも揚げ足を取りたがる人間はいるものだ。何が原因で弱味を握られるか分かったものではないのだ。
 そのことに配慮したための行動だろう。
 とは言ってもほとんど似たような体格なのだから完全に隠せてはいないのだけれど。それでも土方を人目に晒さない配慮に男の気配りを汲み取って、この無体を見ない振りをすることにした。
「万事屋」
 ゆっくりと屋号を呼べば接近していた顔がわずかに離れて土方を見返した。窺うような視線に怒ってはいないと、背中に回した手で軽く体を叩いて示す。
「……ごめん」
 謝罪はむりやり連れてきたことに対してだろうか。それとも何も告げるつもりがないことに対してだろうか。謝ったきり銀時は顔を伏せて、土方の肩口へと額を押しつけて動きを止めた。
 万事屋としてこのかぶき町で何でも屋を営んでいるこの男のことだ。その仕事の内容は屋根の修理や買い物の代行から人捜し、果ては血まなぐさい仇討ちの助っ人など多岐に渡る。その中には土方に言うことの出来ない依頼などもあるのだろう。普段ちゃらんぽらんで生活費をパのつく玉で稼ごうとするようないい加減な男ではあるが、他人の大切なものを疎かにするようなことは一切しない。それどころか率先して助けてしまう所がある。喪失の経験があるからか無意識に人に手を差し伸べてしまうのだ。そうして自分の身を省みることなく無茶をやらかす。
 今回もきっと恐らくそうなのだろう。
 その頭に指を差し込んで、髪の毛をわざと乱すように撫でれば、ぐりぐりと余計に頭を押しつけられた。
 甘やかすのは吝かではない。
 このまま抱きしめて甘やかした所でこの男が駄目になることはないだろう。
 それは分かっているのだけれど。
 撫でていた髪を掴むと、ぐいっと思いっきり引っ張った。
「いだだだだだっハゲるっ」
 ギブギブっと肩を叩く銀時に腕の力を弱めた。
「はー、マジで痛ぇ」
 涙目で自分を睨みつける目にそりゃ悪かったなと笑い返した。
「なんなの土方くんなんなの」
 心底恨めしげに睨んでくる辺り相当痛かったのだろう。
「情けねえ顔してたからな、ちょいと焼き入れてやろうかと」
「優しくねぇ……」
 不満げにつぶやく顔からは先ほどの陰りは消えていた。そうだ、この男にあんな顔は似合わない。
「ア? 俺ァ優しいだろーが」
「どこが!」
 強い口調で返してくる男に自ら顔を寄せて唇を重ねた。わずかに乾いた唇を舌で舐めて潤して、幾度も啄むように押しつけているとぎゅっと再び強く抱きしめられた。そのまましばらくじゃれ合うように唇を合わせ続ける。
「な、優しいだろ?」
 熱く、甘く、語尾を掠れさせて尋ねると。
「ああもう土方オメーってヤツはーー」
「なんだ、気に入らなかったか?」
「最高ですよっ!」
 ふわりと銀時は幸せそうな笑みを浮かべた。


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